妻に託したこと、という話を書きましたが、妻から託されたこともありました。それは……
裁縫です。
必要に迫られて
入院して一週間が経ち、車椅子で移動できるようになってリハビリテーションが始まりましたが、一つ大きな問題がありました。
それまでは下着はおむつ、上には羽織るような病衣を着て過ごしていたのですが、リハビリでは台にあおむけに寝て足をあげるトレーニングがあります。病衣のままですと、はだけてしまうのですね。
「トレパンなどを用意してもらいます。ストレッチ素材ならはけるのでは」と理学療法士のU先生からの言葉だったのですが、いかんせん私の右足には鉄骨が立っています……(どんな脚の状態か、見てみたい方はこちらをクリック※閲覧注意)
妻に頼んで、割とゆったりしたストレッチ素材の短パンを買ってきてもらったのですが、引っ掛けずにはくのは難しそうでした。「奥さんに裁縫を頼んで」と言われた時、私は「あぁ、それは無理」という言葉が0.2秒で脳内に響きました。
夫婦関係が悪いとか、力関係で頼めない、ではありません。妻は裁縫が苦手なのです。私も決して得意ではありませんが、妻と比べるとかなりマシです。
私は妻に頼んで、裁縫セットを用意してもらいました。100円ショップで揃えて持ってきたのですが……文句は言うまい。「弘法筆を選ばずだ! それにどうせヒマ時間はたっぷりあるわけだし」と、裁縫を始めました。
パンツを改造
買ってきてもらったトレパンをどう加工するか。まずはその構造を観察することから始めました。すると、このトレパンはおおまかには4枚の布(右足の前後部分、左足の前後部分)を縫い合わせて作ってあるようでした。そこで、右足側の前後の布を、太ももの外側の部分の縫い目から分離して、スリットを入れるという方針が固まりました。
ところが、こういうトレパンはミシンで縫ってあります。縫い目をほどくのはちょっと難しそうでした。そこで私は縫い目のすぐ横をはさみで切りました。切った部分がほつれるかなと思いましたが、入院期間限定、ダメにしてもイイ! と割り切ってざっくり行きました。
そして、ただ切るだけでは脚を上げたときにベロンとはだけてしまいます。対策として、これも妻に用意してもらった面ファスナーを付けました。この面ファスナーの生地が硬くて、縫いつけるのに苦労しました。最初はしっかり5か所くらいつけようと思ったのですが、3か所で妥協しました。
このトレパンは一着だけなので、リハビリに行く間だけはくことにしました。ただ、スリットは入れたにしても自分で脱着はできません。看護師さん、エイド(看護補助員)さんに毎回手伝ってもらっていました。
味を占める
トレパンの加工の出来が意外と良かったので、味を占めた私はトランクスも加工しました。これも右ももの外側の部分で二枚の布を切り離し、面ファスナーではだけない様に留めました。トランクスは生地がほつれてきそうだったので、折り返すという「ワザ」も使えるようになりました。こうしてだんだんスキルが上がっていく私。
そして妻から頼まれる
次男が小学校に入学することになり、色々用具をそろえる必要があります。そのなかで、「台拭き」というのは手作りで大きさが指定されていました。妻にはいろいろお世話になっています。「こんなのは簡単」と二つ返事で引き受けました。
タオルを半分に切ってそれを半分に畳み、四辺と対角線を縫い付けます。縫い目がずいぶん曲がってしまいましたが、完成させて見舞いに来た時に渡しました。
長いトレパンに挑戦したのだが
リハビリにはいていくトレパンは、一着しかありません。流石にこれでは心もとないし、洗濯ができないと思った私は、加工の第二弾を画策します。
入院中買ってきてもらったものに、ジャージー上下というのもありました。トレパンがロングだったので使っていなかったのですが「これもスリットを入れたら行けるんじゃね?」と思って私ははさみを取り出し、今回は内股の方を切りました。
だがしかし! 途中まで切ったところ気が付くと、スリットが入ったのは左脚のほう。これじゃ意味がない。
「あぁ、一枚無駄にしたな」と思ったのですが、発想の転換で、これを短パンに加工することにしました。目見当ですが左右バランスよく裾上げができました。
思わぬ効果
必要に迫られてやった裁縫ですが、看護師さん達からはほめられたり、感心されたりしました。
ほめられると嬉しいものです。
一方で妻が冷たい人だと思われそうなので「いや、裁縫が苦手なんですよ」と言いふらしてました(笑)
退院するときには
二度目の手術が終わり、脚の鉄骨も外れましたが、しばらくはスリット入りのトレパン、トランクスを履いて過ごしていました。
そして「そろそろ退院」という時期になり、このトレパンとトランクスをどうするか考えました。そもそも、期間限定で仮ごしらえの加工です。お役目ゴメンでお別れしても良かったのですが、貧乏性な性格が出てしまいました。
結局、スリットのところを縫い付けて、いまでも愛用しています(笑)