今日も趣味で書いた短編小説をお届けします。本日の登場人物は、どうやら受験生のようです……
宏子の憂鬱
「サツマイモにはβアミラーゼという酵素が含まれていてこれがデンプンを麦芽糖にするんだよね」
「サツマイモはヒルガオ科だから、アサガオの仲間なんだよね」
……またはじまった。
私と拓実は受験生で、一緒に綾町の図書館で勉強をしている。
そして、ときどき息抜きに「もりのね・綾」という店まで散歩して、やきいもを買って食べる。
私も拓実も甘いものには目がない。
ここの焼きいもは皮が焦げておらず丸ごと食べられるから、二人とも気に入っていた。
ただ、ちょっと困ることがあった。
拓実は理系の大学を受験するから「これは生物の知識だ」と言いながら、焼きいものことを次から次へとひけらかしてくるのだ。
それ、あなたの趣味だよね?
試験にサツマイモ雑学ばっかりでないと思うよ?
と、せっかくの焼きいももこのウンチクを聞きながらだと心から楽しめない
(ていうか、)
(なんか、もっと違うこと話したいのに、)
(大学行ったら別々になっちゃうのに……)
私がそんな顔をしていると
「宏子、勉強のしすぎじゃないのか?
サツマイモの糖分は麦芽糖といってこれは二糖類に分類されるんだけどこの糖分が……」
モー、ソウイウコトジャナイッ!
私はこの人をほっておいて図書館に戻ることにした。
(拓実も知らないとっておきの知識を仕入れるんだから!)
私は受験勉強もそっちのけで、拓実も知らないだろう焼きいも豆知識を調べた。
(サツマイモの事はあいつには勝てない)
(なんかもっと違うことを……)
そういえばこの焼きいも、「ふくろう印」なんていって焼き印が捺してあったわね。
拓実は「フクロウというのは不苦労といってウンウンカンヌン」なんて言ってたけど……
見つけた! これなら拓実も知らないはずだわ
私は微笑みを隠せなかった。
そして後日、
また「もりのね・綾」で焼きいもを食べることになった。
焼きいもの皮に捺された「ふくろうの焼印」をしげしげと眺めながら、拓実が何かを言いかけた。
それを阻止するかのように、私は一気にまくし立てた。
「ねぇ拓実憶えてる? 遠足で都井岬に行ったとき、野生馬がいたわよね。
その野生馬は年に一回だけ人間が捕獲して、健康診断と識別のための焼印を捺すのよ」
(拓実が私の顔を見ている、よしっ、この調子よ。)
「だけど、人間の皮膚は馬やサツマイモの皮と違ってすぐに爛(ただ)れてしまうから、捺しても残らないらしいわよ」
「だから人間のお尻に焼印は捺せないわね!」
息を付く間も忘れていて、ハアハアしている私に拓実は目を丸くして言った
「宏子、おまえ……」
(どう? さすがにこれは知らなかったでしょ?)
「尻に焼印を捺すって、そういう趣味があったのか?」
(///Δ///) ソウイウコトジャナイッテ